yamayama_photo日記

心に残るよしなしごとを写真とともに書きとめる草ログ

サイアノタイプ ワークショップで小学生からの本質的な質問に考えた

 

先日、展覧会の関連イベントで「サイアノタイプ 」のワークショップを行った。

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「サイアノタイプ 」は青写真あるいは日光写真とも言われる。塩化銀が日光で化学変化し群青色の画像が現れるのを利用した、写真の古典技法の一つだ。

このときは印画紙の上に直接ものを置いてそのシルエットなどを表すフォトグラムの方式で、絵を作った。

紙に薬剤を塗って印画紙作成、乾燥時間にモチーフとなる植物などを探し、印画紙上にモチーフを置いて太陽による露光、水現像、過酸化水素水での仕上げ浴、乾燥、発表という手順。

 

開始前に露光時間を計測するためテスト露光をしていたら、ずいぶんと早くワークショップ参加者の小学生が親御さんとともに会場へ入ってきた。

 

以下小学生と私の会話...

小学生「何してるの?」 

わたし「今日やる日光写真のテスト中です。」

小学生「え〜、なんでそんなことするの?」

わたし「え、なんでだろうねえ?」

 

サイアノタイプ の露光は太陽光を使う。そのため、自然の恩恵に感謝しながら、刻々と変わる陽の光をしっかりと確認することが必要だ。参加者に「今日の太陽の状況で場所を決め、時間は印画紙の様子を見ながら」と説明して露光を始めた。

小学生「これって、太陽より紫外線の光源使った方が早いんじゃない?」

わたし「そうだね。でも、今日は天気が良いし、昔の技法をやってみて、自然の光を借りてどんなふうにできるか、体験してみようというワークショップだからね。今日は太陽の光でやってみよう!」

 

最後の仕上げ浴には一般的にはオキシドールと言う過酸化水素水の水溶液を使うと説明したら、

小学生「H2O2だよね!」

 わたし「ああ、化学式だね。よく知っていますねえ。」

小学生「水のH2Oに酸素が増えたものだよ。」

わたし「そう、これは水溶液なので、H2O2です。学校で習ったの?」

・・と聞いたときにはもうどこかへ走っていってしまった。

 

この質問をした子どもは小学4年生だそうだ。

特別に科学が好きなわけではないらしく、親御さんと一緒に展示を見にきてくれていたから、何か見たり、知ったりすることには興味があるのだろう。自分の思いを言葉にしていただけかもしれない。

 

他の参加された高校生や大人に比べると、モチーフの選び方も並べ方も何もかもスピーディーで、興味もこだわりも無いのかと思えたが、始めるとちょっとモチーフが動いてしまっただけでも嘆いていた。

やりたいことがどんどん出てきて、ここはこうしたいと言う意思がはっきりしているのが分かった。うまくいくかどうかを考えるよりも、やってみて結果を見て学んでいくようだと感じた。

大人と違って熟慮はしない、でもその子の中では熟慮と言えるのかもしれない。思い通りに行かないと少し留まっていたけれど、すぐにまた動き出していた。

 

子どもと大人の時間の過ぎる速度の感じ方は、数倍違うときく。子どもは未来の思考のために色々と学んで記憶し、また感動が大きいから時間をめいっぱい長く感じるのだという人もいる。

見ること聞くこと全て、気の遠くなるほど多くの事を体験し記憶しているから、とてもスピーディーになるのだろうか。確かに子どもの成長は目に見えるほど早い。子どもは時間が過ぎる感覚については考えないのではないか。いや、そんなこともない。

時々砂場で、スコップですくった砂を落とす事を繰り返している子どもがいるが、同じ事をしているのではなく、繰り返しの中からいろいろな新しい事を学んでいるといわれている。

生きて行くために識るべき事はキリがないから、子どもには時間が足りないのかも知れない。

 

 

ゆっくり話せなかったが、最初の質問が心に残った。

「なんでそんなことするの?」

そう、用があってではなく自分の思いでものを作ったり、絵を描くことを、なぜ人はするのか?とてもシンプルで、しかし多くの学者やアーティストが考えても一つの答えにいきつかない複雑な問いだ。

そこをもっと考えてワークショップの参加者に伝えなければならなかった。小学生の言葉に大事なことを気づかせてもらった。最後にもっと感想をシェアできたらもっともっとやる意味が深まったかもしれない。ワークショップはそこが面白いところでもある。

 

サイアノタイプは19世紀に天文学者で科学者でもあったジョン・ハーシェル卿が開発した。きっと彼は初めて塩化鉄が紫外線で化学反応をおこし、青に変色するのに気づいたとき、その変化を記憶に残し、皆に見せられるようにしたいと思い研究したのだろう。結果、私たちは美しい青の画像が得られるようになった。

何かできそうだ、やってみたいというざわめきが心の中でわき起こり、思いつき、行動に移し、 何かが出来上がる。こういった回路を通さずに直感的な心と体の動きもあるだろうが、それにしても、人は自分の持つ知識を使い、わきあがる思いを伝えようとその方法を創りだす能力を持っている。本当に奇跡のようである。

 

ところで、親に連れられて参加したとしても、サイアノタイプをやってみた結果、君は楽しかっただろうか?やって見たらいろいろな考えがわきあがってきて、伝えたいと思ったんじゃないだろうか。なんだか楽しそうに見えたよ。

 

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