ゆっくりいただく蔵つき麹のパン
立冬の候にしては暖かくなった午後、鎌倉の常盤山あたりの谷戸で蔵つき麹の発酵種から生まれるパンと、自然栽培野菜のスープをいただいた。
鎌倉駅から3つ目の隧道を抜けると少し開けた景色になり、とても静かで自然に囲まれているのを急に感じる。右手には北条氏常盤邸跡という遺跡があり、鎌倉文化の栄華を残す地でもある。
Natural Bread & Vigan Cafe「kamakura 24sekki」はこの常盤の地にたたずんでいる。
店主は仕事に明け暮れる生活を根本的に変えようと、身体と健康の関係を重視し野菜や穀物の食生活の研究を始めた。その一環として修業した古式製法でつくる天然麹からパンを作るベーカリーと出会い、そこで自分もこういうパンを焼きたい、カフェをやりたいとの思いが湧いたという。
食と心身の深いつながりを実感した経験から、その思いをかたちにすべくこのベーカリーカフェkamakura 24sekkiを開き、季節のめぐりの中で自然のめぐみをたっぷり受けたいのちをいただくパンと食べ物を提供している。天然の自家製酵母による丁寧な時間のかけ方に店主の意志が伝わってくる。
ふと普通のパン屋さんと匂いがまったく違うと気がついた。パン屋さんの近くに行くと漂ってくる、そそられるような香り高いイーストの匂いがまったくない。自然の中で呼吸している蔵つき麹発酵種のためだと言うことだった。
ここでいただいた「ベジサンドイッチ」と「自然栽培やさいのスープ」は、こだわり抜いた素材と製法からできているため、どちらも滋養に富むという言葉が久しぶりに湧き出て実感した。素材の力がそのまま包まれ、鮮やかでおしゃれな見た目とことなるヘビィな食べごごちだった。サンドイッチは全部食べれなくて半分お持ち帰りの人もいると言う。
店主が大工さんと一緒にリノベーションを手がけた店内は、木肌が柔らかい空間だ。窓が大きくて季節のめぐりを知らせる外の風景も美しい。ひそやかに聞こえるジャズも空間の一部になり、店内を流れていた。
食べ物が体の中から力をくれ
谷戸という場が体の外から力をくれるこの空間は
何かに包まれているような感触がして、全身で安心を感じるようだった。
この命を育むような心地よい場にもっといたくなり、たんぽぽのコーヒーを注文し、ゆっくりいただいた。
命を大切に考えて信じた方法でしっかりとつくられた食べ物や空間は
決してあわてて味わうことができない。
いつの間にかこちらも丁寧にきちんと受け止めようとしていた。
どのくらいの時間ここにいたのだろうか。
とても充実した気持ちになった。
▲大きな窓と木肌が優しい店内には穏やかに空気が流れる
▲窓から小さな紫の秋の花が咲く庭が見える
▲見上げて愛でる皇帝ダリアが鎌倉の庭に多く見られた
▲周囲の低山の合間の畑
▲鎌倉駅から二つ目の長谷隧道
*デジタル朝日新聞 &W「鎌倉から、物語。」を一部 参考にしています。