見える人も見えない人もさわって一緒に楽しむ絵本
「点字つきさわる絵本」は目の見えない人と見える人がいっしょに楽しめる絵本だ。目の見える子と見えない子が一緒にみること、目の見えない母親が子どもに読んであげることで、新しいコミュニケーションや知識、感性が育まれるだろう。
「点字つきさわる絵本」はバリアフリー絵本ともいわれ書店は限られているが、一般の書店でも扱われ、大手の出版社から何冊も発行されている。
通常の印刷の文字部分に透明な隆起する樹脂インクで点字を印刷し、絵の部分も絵の形を線や面で樹脂インクを盛り上げて印刷し、指で触って点字や絵柄を理解出来るようにしている。
しかし、元の絵本の文字や絵柄そのままに点字や形で印刷しても、触った人にはとても分かり難いことが多い。文字の位置や並び方、特に絵本では言葉の遊びなどではそのままの点字にしても伝わらないことが多い。また、絵柄に関しては背景との識別など元の絵そのままでは絵がごちゃごちゃして理解出来ない。またノド部分(本の中央の折り目、あるいは束ねられた部分)に樹脂インクで印刷されるとインキがはがれたり、点字がつぶれたりするので調整し、絵本ごとに見えない人にも絵本の世界観が壊れず伝わるようなたくさんの工夫が必要になる。例えばフライパンが横から描かれた次のページで真上から描かれると、視点が変わったことが分からないと理解が難しい。地面の線がないとそこにいる動物たちが浮いているように感じたり、だからといって分かりやすさだけにとらわれると絵本の世界観から離れてしまう。製本や印刷が特別になるので、絵本の価格をおさえる工夫も重要になる。
その制作に大きな力を与えているのが「点字つき絵本の出版と普及を考える会」で、目の見えない人と見える人がいっしょに絵本を楽しめるように点字つき絵本の出版を目指している。この会は先天的に目が不自由な岩田美津子さんという方が出版社などに声をかけて始まり、点字つきさわる絵本の研究、制作の協力、普及を訴えている。
2013年、この会の10周年を記念し、点字つきさわる絵本の『こぐまちゃんとどうぶつえん』(こぐま社)、『ノンタンじどうしゃぶっぶー』(偕成社)、『さわるめいろ』(小学館)の3冊が同時出版され、追って『ぐりとぐら』(福音館)がぐりとぐら誕生50周年記念の1つとして出版された。このときにテレビでも紹介され、多くの人が知るきっかけとなった。岩田さんはこのような誰でもが知っている絵本を、目の見えない子どもたちにも楽しんでもらいたいと願っていたそうだ。
2014年にはてんじつきさわるえほん『さわるめいろ』(小学館)が、多くの賞を受賞し、目の見える多くの人にも周知されたという。
また視覚障害者にもいろいろな状況があり、弱視の子どもは色のきれいさを喜ぶことも分かった。2015年に出た『さわるめいろ2』では、カラフルな色といろいろな難度の迷路がデザインされ、視覚障害の方をはじめとし、目の見える人も更に楽しめる美しい絵本がつくられた。
『さわるめいろ』は印刷された普通の文字には透明な樹脂インクで点字が施され、迷路部分は盛り上がった点線で迷路を指でたどれるようになっている。視覚障害の人をはじめ、目の見える人も目をつぶって指先の感覚を研ぎすまして楽しむことが出来る。
視覚障害でも先天的全盲でないと点字は学ばないとも聞く。だから余計に誰かといっしょとか、絵の触図が楽しく集中出来るものが必要だと思う。いまの私では点字はおろか、触図部分も判別出来ないが、この迷路では少し練習すると楽しめるような気がする。
このさわる絵本はドイツ語訳され、"Streichel-Labyrinthe"として販売されているという。
日本での発行と違うところは、ドイツでは特別な視覚障害者用さわる絵本という扱いではなく、インクルーシブな本としているとのことだ。また裏表紙には日本のように点字での絵本の遊び方の説明はなく、絵本のコンセプトが書かれている。本文にも通常の文字印刷の上に点字はなく、迷路の点線状の隆起(触図)に集中するようになっていてシンプルなようだ。
印刷された普通の文字に点字が施され、使い方の説明がされている丁寧な日本の絵本。絵本にさわれば遊び方は自然に分かるというように説明よりも絵本のコンセプトが書かれたドイツの絵本。
同じ絵本でもお国柄が現れていることから考えることもいろいろだ。
ドイツの出版社
Streichel-Labyrinthe für Menschen mit Fingerspitzengefühl