yamayama_photo日記

心に残るよしなしごとを写真とともに書きとめる草ログ

しょうぶ学園

9月6~8日と2泊3日で鹿児島の障がい者支援センター「しょうぶ学園」を体験に行った。
しょうぶ学園は正式には社会福祉法人太陽会の事業で、障害者支援センター SHOBU STYLEが総称である。
最初にしょうぶ学園を知ったのは「nui project」という名前で紹介されていた過剰過ぎるほど自由に刺繍された服たちとの出会いだった。どんなところでこのすばらしい作品が障がい者によって創られているのか知りたい。それは初め作品としての素晴らしさに見せられたからだった。

近年、障害者支援をアートの力で改善、展開しようという試みが注目されている。それぞれの施設によって条件はさまざまだが、アート(自由な表現という方が適切な気もする)を切り口に障害者の就労支援や生活支援、治療を行い、福祉の場だけでなく広く社会とつながり、新しい価値観をもたらすプログラムを提案している。「障がい」という概念が変わりつつあるのだ。
今回行ったしょうぶ学園は障がい者施設の経験から、人が本来持っているピュアな欲望をそのまま受け止め、創造的な活動に昇華しようとしている。特筆するのはそのクオリティの高さと現代性、徹底したサポートの独自性だ。

しょうぶ学園には入所施設やデイケアの施設の他、工房しょうぶとして布の工房、木の工房、土(陶芸)の工房、紙の工房等がある。施設利用者の興味、特性、能力などによって希望者が各活動に参加している。nui projectはこの布の工房から生まれている。
それぞれの工房から生まれたものは、作品として展示されたり、商品に仕立てられたり、本人が作品を手放すのを望まない場合何年も同じ作業をし続けている人もいる。作品やグッズとして公開されるのは一部であるが、作家として評価され海外の展覧会や画廊で紹介される人もいる。本来、アートにジャンルは不要だが、現在は障がい者のアートとしてアール・ブリュットアウトサイダーアートとして紹介されることが多く、差別的と敬遠する人もいる。しょうぶ学園では表現したいという欲求を素直に外化した何にも属さないアート:just artと呼んでいる。
施設利用者にとっては表現することあるいは、ものを創ることと思っているのかどうかも分からない。ただ、そのことは生きることと同様に自然であり、その人の生きるエネルギーと同調しているようにみえる。見た限りでは固執しているようにも思えない気持ちのよいものを感じた。

ここでは施設利用者の作ったものを作品として展示したり、商品に仕立てて販売することは利用者とスタッフのコラボレーションだと考える。規制概念に影響されない表現をストレートにできる事と、社会の規範に適応して行動することは相反することだが、障がい者には前者は容易だが後者は難しい、健常者と言われる者には前者が難しく後者が通常だ。それぞれお互いに相反する障がいを持つと考え、障がいはトラブルではなく特性だと考える。障がい者をなんとか通常の社会に適応させようとするのではなく、寄り添うという言葉が適し、互いに心地よく過ごせるように目指している。
工房で作られるものの他に、農園での野菜作りや、パン屋さんやそば屋さん、カフェも開設され、地域交流スペースやギャラリーとともに一般の人に公開し、開かれた施設としている。カフェの生パスタ類はパスタの形状もデザインされていて美味しいだけでなく、とても楽しいものだった。また、それぞれの場所では施設利用者も働いている。

もう一つ忘れられないのは、しょうぶ学園の環境が素晴らしいところだ。鹿児島という場所柄もあるだろうが市街地の天文館からバスで約30分弱の菖蒲谷という山と緑に囲まれながらも、周囲には民家やコンビニエンスストアもあるところだった。門に続く桜並木の突き当たりに芝生の広場があり、周囲には大きな樹木が枝を揺らし、スタッフが作ったという小川のある美しい庭や、それぞれの目的のしゃれた建物が距離感を持って点在する心地よい場所だ。今までの障がい者施設というイメージは全くなく、自然を感じ、場を大切にする主宰者の感性、考えが伝わってくる。実際、建物を一部リニューアルしたときに利用者やスタッフの関係が良くなったそうだ。

わたしは入所者のアートに関する部分しか体験出来なかったが、環境がすばらしく整えられていればいるほど、スタッフの大変さを感じてしまった。
けれど、たまたまここで行われている音楽教室のライブ「otto & orabu」はその心配を払拭するほど、演奏するメンバーの心からの声が聞こえるものだった。音楽を楽しむというよりも生きる喜びそのものが振動となって心に響いた。打楽器を演奏するのが障がいを持った皆さんで、安定したリズムやメロディーを奏でるのと叫ぶのが施設のスタッフ達だった。スタッフの疲れもこの演奏や叫びで発散されるのではないかと思った。「音階を譜面通りに演奏せずにずれる事が障がい者の演奏ならば、それに合わせて演奏すればよいと気付いた。」
このバンドの演奏を身体全体で踊るように指揮をしていたしょうぶ学園の園長の言葉だ。

すべて理想的に整えられている施設はともすれば、寄り添いながらも利用者の気持ちや意思より主宰側のこだわりが強く働いているようにも感じられるが、園長の話を聞いていると社会につながっていくために、施設利用者の希望をどのようにはかるのか、その思いに寄り添ってどこまで作品に関わってよいのか、非常にセンシティブに考えている事が伝わってきた。


あのすごい刺繍のシャツが生まれてくる現場は、やはりすごい所だった。
人が本来持っている力を、社会の中でどのように伸ばして表現していけば良いのか。今言われているアートとは何なのか。人が心地よく生きるとはどういうことなのか。
出来ることからはじめるというシンプルなこと、何にも規制を受けない表現を無理なく支援するということから、饒舌な世界が生まれてくるようなしょうぶ学園の試みを見ると、今の社会は余計なことが多くなり過ぎているように思えて来た。

しょうぶ学園 http://www.shobu.jp/


桜並木の正面の芝生の広場と地域交流スペース“オムニハウス”


オムニハウスの壁画は利用者の絵をもとにスタッフが描いたもの
内部の壁面にもモノトーンで描かれているが、天井や床など思っていない箇所に描かれていて楽しい
床にも利用者の作品のタイルが埋め込まれている


大きな木に竹の楽器が下がっている庭 奥は紙の工房


紙の工房
建物右半分に紙漉の設備があり、左半分では描画や版画などを行っている


布の工房 最近土壁の建物にリニューアルしたそうだ
中は木の壁で自然の光が入ってくる天井の高い明るい建物 モグラハウスという


布の工房でできる魅力的なnui projectの刺繍のシャツ
刺繍を特別に教えてはいないけれど針と糸があると自由に刺繍を始めたそうだが
玉結びを知らないのでスタッフがほつれないように工夫をする


土の工房前の花壇には気がつくと焼き物の作品がかくれている


至る所にある手作りの看板やサインが微笑ましい


おしゃれな“パスタ&カフェOtafuku”
入り口壁面を利用者作のテラコッタが飾っている


おたふくの自家製生パスタ
パスタの種類によって形状が違う このパスタはおたふくの絵がエンボスされたまるい形
食器や雑貨もほとんど利用者の手作りだ


庭のアメリカデイゴの花が南国らしくまぶしかった


2日目に布の工房で利用者さんたちと刺繍のワークショップをした
利用者とテーブルを囲み無心に無心にと思いながら針を動かした
時々こちらに「ほらこんな感じ」と制作中の刺繍を見せてくれながら
隣で黙々と縫っている利用者さんに触発され、何となく丸い感じで刺繍した