yamayama_photo日記

心に残るよしなしごとを写真とともに書きとめる草ログ

あと2ヶ月先の姿

先日、東大寺の40枚のふすま絵を描いた日本画家のドキュメンタリーをNHK新日曜美術館で見た。

御歳86の日本画家・小泉淳作氏。大作に取り組んだ5年間には身体を壊したり、床に画布を置いて下を向いて描く姿勢から腰を痛めたり、時間が延びて制作場所を大移動したり、創造を絶する状況がうかがえた。
これだけの枚数を描いていれば当然最初と最後で筆至や色など変化が出るはず、制作者の心が強くなければ描ききれない。この画家は最後の最後に、蓮の葉の色が良くないと仕上がりかかった絵を塗りつぶした…。見ているこちらの方が気が遠くなった。
「作品には小さな点で描くとしても、よく見て素描をして実際の桜を知らないと。」、「描くのは辛抱の連続なんだ。」、「俺が俺がと言ってたら出来ない」、「誰のものでもない、平成の絵師の仕事だ。」などなど、50歳過ぎてからGデザイナーをやめて日本画家に専念され団体にも属さなかった、真に生と死の狭間で描いてきた経験からでてくる言葉と重く受け取った。
90歳を過ぎた郷倉和子さんの梅の絵を見たときも、大きな画面に緻密な構成で描かれていて、描いているときの頭の中はどうなっているのだろうかと思った。計算と無の境地が見事なバランスで入り交じっているのだろうと確信する。

小泉画伯は桜を初めて描いたという。誰が描いてもおなじようになってしまうと言って描かなかった。東大寺のこのふすま絵にかける思いも伝わってくる。



桜で思い出したいつも近くで見ている学校の桜、あと2ヶ月先の姿は全く変わっているはず。
画家は5年かかって桜を描いた。その花はいつまでも散らない。でも,この桜は1年でまた咲くけれど
すぐ散ってしまう。